遠征先で魚を釣って食って暮らした話。

タコ三昧。どうも何某です。こんにちは。

また、タコ釣り行きたいねなんて話をしてたら思い出したので書いてます。

遠征先で魚を釣って食って暮らした話。

『暇だな。』

「やるぞ。サバイバル遠征。」

20年以上前の秋。我々は暇だった。
鍋とコンロなど最低限のもの。そして、もちろん釣具を持って、M氏、S氏とともに遠く他県へ車を走らす。
無料開放している巨大な駐車場の端をベースとし、ブルーシートを敷いてワカサギ用のテントを張る。
遠くにもいくつか車中泊をしている車が見える。
おそらく、本来はこんなことをしてはいけない場所だとは思うのだが、時代なのか田舎だからなのか見過ごされているようだ。
事実、近所で事件があったとかで職務質問を受けたことがあったが、身元が知れれば特に警官に問題とされることもなかった。
まぁ、ざっと1000台以上は停めれる駐車場に数台なので、いないも同然なのだろう。
ここのいいところは、目の前が運河であり、一級のシーバスポイントである。記憶では100回以上はここに釣行したが、釣れなかったことは一度も無い気がする。サイズの大小はあれど、必ず結果が出る場所だ。
居付きのシーバスは臭くて食えないが、海から遡上してくるここのシーバスは美味であり、釣って料亭に高値で卸すのを仕事にしている人もいるのだという。
酒を飲んではテントを出てルアーを投げ、釣って戻っては酒を飲む。釣り師にとっては夢のような生活だ。シーバスさえ釣り続ければ、雪が降るまでここで生活できる。
釣ったシーバスを切り身にして鍋に入れ、味噌で煮るだけ。荒々しい料理ではあるが、何故か釣りして戻ってくると何杯も食べてしまう。
がしかし、2、3日もすると流石に飽きてしまうもので、温泉に入った帰りにS氏が言う。

「他のも食いてぇな。」

『昔ソイレントグリーンって映画があってだな。』

「米よ米。米が食いてえ。」

「んじゃ、マジマ行くか。」

マジマというのは、惣菜を並べてある店で、いわゆるご当地オリジン弁当みたいなものである。オリジン弁当と違うのは釣具や餌も売っているというところだ。
ファッションセンターしまむらを「ファしま」と略すように、我々はマジマと呼んでいた。
余談ではあるが、嫁に「ファしま」と言ったところ、全く通じなくて驚いたことがある。「しまむら」だと。どうやら、「ファしま」と略すのは私の周りの一部だけらしいというのを、結婚してから知る。
閑話休題。
シーバスも飽きたので、ここでサビキなども買い、漁港にベースを移そうということになった。

『おい、誰がからあげ買ったべ?』

「おれだー。」とS氏。
思わずM氏が声を荒げる。

「おめ、それは負げと一緒だぞ!さいとうたかをに足向げて寝れんのが!?」

いつの間にか謎のルールがあったようだ。
ニンニクを含んだ、からあげ臭が食欲と機嫌を刺激するなか、車は漁港に到着した。
巨大な駐車場の岸壁に沿ってズラッと車とテントが並ぶ。ここの方々も泊まりで釣りしてるのだろう。何人かは巨大な投光機も用意している。夜は海面を照らして集魚するのに使うのだろう。
昼夜問わず、サビキで色々釣れているようだ。
腹ごしらえした後、トリックサビキを落とすと豆アジが入れ食いとなった。
M氏は早速唐揚げにする準備をし始める。
ワインと豆アジの唐揚げを堪能していると、海と我々を遮ってオジサンが入ってきた。
何事かと思うと無言で何かをやっている。

「何すか?」

M氏の問いかけに反応もせず、オジサンは横に移動する。
見ると釣りしている人がいるのも関係なく、数歩づつ岸壁沿いに仕掛けを落としていっているようだ。
「ありゃタコ狙ってんだな。」とM氏。

「釣ってるところに邪魔してやるんだから、一言あってもいいべ。」

と、S氏は「無頼派」というウィスキーをチビチビと飲みながらぼやいた。
直後、少し先から怒号が聞こえてきた。
何事かと見ていると、先程のタコ釣りしていたオジサンが揉めているらしく、釣座を構えていたファミリーのクーラーボックスを海に蹴り落としていた。
あっ、と思った時には、タコ釣りのオジサンはファミリーの父親に、ゴリラーマンでしか見たことないような飛び蹴りを食らって海に落ちていった。
周りの方々は助けもせず、「グルっと周れば登るとこあっがら。」と、冷たく釣りを続けていた。救出したのはクーラーボックスのみである。
タコ釣りのオジサンは泳いでいき無事生還したようで、そのまま車に乗り帰っていった。
豆アジを釣り続けてもしょうがないので、泳がせてみるとすぐさま巨大なダツが釣れる。
食べたことがないと騒いでいると、隣の方から「塩焼きが美味しいよ。」と教えられる。
なるほど、と切り身にもせず、コンロに網を乗せて豪快に塩焼きにし、焼けた身の部分から口に放り込み酒で流し込む。
確かに美味いと酒盛りを続けていると、遠くから大騒ぎする人々が徐々に近づいてきた。
海面を覗き込んで騒いでいる。もしや、タコ釣り師がまた泳いでいるのか。
3人で覗き込むと、巨大なブリがゆっくりと泳いでいた。
タモ網が微妙に届かない位置。初めて泳いでいるブリを見た。
今でこそ獲れるようだが、当時の北の海ではブリというのは結構珍しかった記憶がある。実際はどうだったのかはわからないが、北の海にはイナダはかろうじて来ることもあるが、ブリは南の魚という認識だった。
なんとか釣れないかと、豆アジを泳がせ続ける。
すると、自転車に乗った爺さんが猛スピードで真っ直ぐこっちに向かってきた。

「キキーッ。」

けたたましく錆びついたブレーキ音が響く。

「釣れでるが?」

カゴにはなぜかタコ糸がグルグル巻きされたファーストミットが入っていた。

「鉄の魚持ってるが?そう!それだ!」

何の説明もなくタックルボックスのメタルジグを指差して興奮して喋り出す。

「そいづを投げでな、底に着くだろ?そしたらな高速回転だ!」

リールをこれでもかと高速回転させる仕草をする爺さん。
投げろの指示に従いジグを投げると「まだよ!まだよ!」の声がかかる。
着底の瞬間「よしっ!高速回転だっ!」と後ろから叫ぶ。

「よぐやったな。それやってれば釣れるぞ。頑張れ。」

「そのファーストミットは何ですか?」

「癖つけでるのよ。オレの相棒ってやつだな。ババの形見でもある。」

結局何が釣れるのか、何故我々に一目散にやってきたのか言わないまま、ニヤリと笑い、爺さんは猛スピードで自転車を走らせ帰って行った。

「婆さんがファースト守るかね?」

「無頼派」を飲みながらS氏がつぶやく。
ババってことは、おそらく亡くなった奥さんの形見なのであろうが、老婆と新品のファーストミットの組み合わせとは一体。疑問は増える。
変な人多いなと思いながら、高速回転をしてみると、「のにゅ」っとした手答え。根がかりしたらしい。
外そうとすると、巻いてくることができたが重い。
『ゴミ引っ掛けだな。』などと寄せてくると、水面でウネウネと何かが動いている。

「あ?ん?あー?タゴが?やっ、タゴだ!」

S氏が叫ぶ。
あまりにも巨大すぎて何か分からなかったが、確かによく見ると海面には3m以上は余裕であるタコがウネウネとうごめいていた。

『ダメだこれあげれねーぞ。』

とてつもなく重い。
とりあえずタモ網に入れよう。
がしかし、巨大タコは入るどころか逆にタモ網を抱え込んでしまった。
絶望感が3人を包む。
ハッと我に帰り、タモ網をそのまま抜きにかかると、タコはタモ網をスッと離し、防波堤にべったりと張り付いてしまった。
騒ぎに人が集まってくる。
タコは全く動かない。

「タモ網を下にして上から押して剥がせないですかね。」

周りから声がかかる。
言われた通り、タモ網をタコの下に置き、上から別のタモ網で堤防から引き剥がしはじめた。
タモ網で頭を突くようにすると、嫌がったタコが剥がれた。
瞬間、下のタモ網ですくい入れ、勢いよく堤防の上に引き上げる。
歓声があがった。
が、ここからがまた大変で、海に逃げようとする巨大なタコ、正確にはミズダコを捕まえられない。
どこからともなく現れた女性が、「これに入れれば?」と大きいゴミ袋を渡してきた。
逃げる先に広げて置いて待つと、勝手にミズダコは入っていった。
先程より大きな歓声があがった。
良かった良かったと安堵していると、岸壁沿いに皆整列し海面を覗いているのに気付く。
我々も覗き込むと、岸壁沿いを先程のブリが右側を上にし、横を向いて泳いできた。
その姿から察するに、どうやら病気しているらしい。
誰一人も騒がずに、夕日に染まった海面を静かに泳ぐ老魚の姿を見送っていた。

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