なんか気温の落差が激しいような。どうも何某です。こんばんは。
今日はなぜか一部の方々から反応が良かった、「水辺のマリオネットと遭遇した話。」の続編です。
マリオネットの川流れの話。
カコッーン。
河原に硬い音が響き渡る。
一時の間をおいてゆっくりと魚が浮かび上がってきた。
地元では「発破」と言われている漁だ。
浮石に石を投げつけ、ぶつかった振動でそこに隠れている魚を気絶させ捕まえる方法だ。
厳密には密漁になるが、漁協の人がやり方教えてくれたりしたので、当時は子供の遊びと見逃されていたのだろう。
まぁ、その後「本当の発破ってのはこうだけどな。」と、ダイナマイトを川に投げこむ。いわゆるダイナマイト漁で豪快な差を見せつけられたが。
今思えば、当時でも目の前で爆発するダイナマイトを見る子供は珍しかっただろう。
子供は良くて爆竹くらいなもので、当然ダイナマイトなんぞ手に入るわけもなく、チマチマと石を投げては捕まえた魚のエラから笹の枝を通しストリンガーとして持って歩く。
次の目標の石をS君と相談していると
「おーい。獲れだがー?」
「あ、おじさん。何したの?」
S君のおじさんが背負子を背負ってやってきた。
この方は、以前サクラマスと見誤って自分の足を刺すという伝説を残した方で、すでに我々の中では偉人クラスのおじさんである。
当時中学生の私達は、土曜日の午前中のみ授業、いわゆる半ドンなので日中でも遊んでいたのだが、おじさんはいつも暇してるような気がする。S君に聞いても、たまにふらっと数ヶ月いなくなるが、基本は居候してゴロゴロしている謎の人だという。
「そんなチマチマ取ってもしょうがないだろ。これだよ、これ。」
おじさんはそう言って背負子を見せると、車のバッテリーが積んであった。
「この棒を水に入れて、ボタン押せばプカっと浮がんでくるのよ。」
これでもかとドヤ顔をする、おじさん。
要は、両手に持った鉄の棒を水中に入れ手元のボタンを押すと、背負ったバッテリーから電気が流れて、一帯の魚を一網打尽にするというダイナマイト漁並の破壊力があるようだ。
おそらく、当時でも地元民とはいえ見つかれば問題になりそうな気がするが、漁業権ある人でもダイナマイトをポンポン投げるくらいなので、実際はどうなのか。
なんにせよ、昭和の名残り恐るべしというところだろうか。
細長い網を私達に手渡し、「下流に張れ。」と指示を出すと、おじさんは上流に歩いていった。
浮いて流れてきた魚をこの網で受け止めるのだという。
途中、「危ないから川さ入るなよ!ビリっとくるだげじゃすまねーぞ!」と叫ぶおじさん。
一体どうなるんだと、私とS君の2人は生唾を飲み込む。
河原にバッテリーを置き、両手に棒を握りしめて川のほぼ真ん中に仁王立ちするおじさん。いよいよ漁が始まる。
「危ないから川さ入るなよ!」
再度キツめの注意を叫ぶおじさん。
「やるがらなー!3、2、1!」
スンッ。
多少屈み込んだその刹那、背筋がトンっと伸びたかと思うと、そのまま、スンッと後ろにおじさんは倒れた。
そのまま仰向けに浮かぶおじさん。
何事かと2人は動けず見ていると、ゆっくりとおじさんが上流から流れてくる。
静かにおじさんは流れてくる。
しばらくすると、私達が張っている網におじさんが入った、かに思われたが、クルンッと草舟のように向きを変えたおじさんは、ゆっくりと網を乗り越えて下流に流れていく。
状況を飲み込めず、河流の影響で速くなったり遅くなったりするおじさんを眺めていたが、『あれってさー!?』の問いかけにS君もこちらを見た。
『あれってさー!?死んでんじゃねーが?』
ハッとした顔をした後、S君の顔がどんどん青ざめていった。
「じゃ!ヤベって!どんどん流されでぐ!」
『おじさーん!』
網を捨てて下流に向かって走る2人。
追いつく直前で、おじさんは石に引っかかっていた。
『入って大丈夫だべが?』
「バッテリーど結構距離あるけど怖いな。」
『なんじょする?』
「いやー、このまま帰ったらおっかあに怒られるがらな。。。」
見捨てる選択肢が2人の間をよぎるが、親に怒られそうという恐怖のほうが上回り助ける事にする。子供とは恐ろしい。
や、助けるというのはこの時は思っていなかった。処理する。これが正しい気がする。
なぜなら、2人は完全に逝ったテイでおじさんを見下ろしていたのだ。
白目をむいたおじさんを浅瀬に引きずっていく。意識のない人間はとても重い。
恐る恐る呼吸を確認すると、息があるようだ。安堵する2人。
とりあえずS氏が父親を呼びに行く。
待ってる間、いつおじさんが逝ってしまうかと私は気が気ではない。
救急車の音が河原に響く。
しばらくするとS君を先頭に父親と救急隊がやってきた。
「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
何やら色々と声をかけているようだ。やりとりしてるところを見ると意識が戻ったのだろうか。
「何が起こりました?感電って聞いだけども釣り竿でも電線さ引っ掛けだのが?」
救急隊が私達に声をかけると、S君の父親が割って入った。
「あのバッテリーで電気流して魚獲るやづやったのはいいけど、ゴム長履ぐの忘れて感電したのよ。んだべ?」
あぁ、そういう事かと2人は納得した。
そりゃ仰向けにスンッと倒れるわと。
「馬鹿ヤロウだがら、煮るなりなんだりしてけらい。」
呆れ顔で吐き捨てながら頭を下げるS君の父親。
「まぁ、たいしたごどなさそうだけど、一応病院さ連れでぐがらね。」
呆然と運ばれていくおじさんを見送る3人。
どうやら、S君の父親の話によると、昔やって見せた電気ショック漁一式を物置で見つけ、我々に良いところを見せようと持ち出したのではないかとのこと。
その夜、S君と母親が迷惑かけたと私の家に挨拶に来た。
「あいづはもう縁切ったがら。そのまま死ねばいがったのよ。呆れで何も言えねでば。」
それからしばらくして、おじさんは旅に出たらしい。
10年後くらいだろうか、ふと思い出し、S氏に『今おじさんどうなってだ?』と聞いたところ
「海で立ちションしようどしたら、停めだ自分の車がバックしできて轢かれで、一緒に海に落ぢだらしい。」
さらには
「んで、車買うがら金貸してけろって来て、おっかあに鎌持って追っかげられでたな。そっから見でねーな。」
あれから数十年。今おじさんは何処で何をしているのだろうか。
卓上で充電中のモバイルバッテリーを見ながらふと思った。