欲しいロッドが売ってない。どうも何某です。こんにちは。
釣りってひとくくりにされますが、実際は細分化されすぎているため、釣りの中でもマイナーなジャンルの道具は手に入りづらいのが理解されないです。
浮かれをスカす
「キャスティングのスキルあげるんだったら、GTやるのがいいよ」
キハダのキャスティング船で、そうアドバイスを受け、半年ほど前に予約した飛行機は、無事、空港を飛び立つ。
子供の頃憧れた沖縄は、驚くほど安くチケットが取れた。ホテルも相当安い。
コロナ禍だったからだろうか。
イヤホンから流れてくる沖縄に高揚を隠せなくなる。
そんな沖縄に突如暗雲が立ち込めたかのように、目の前が真っ暗になった。
何事かと目を凝らすと、隣に座っている中年女性が私の顔前まで身を乗り出し外の景色を眺めていた。
旦那と思われる男性も一緒に窓側に身体を倒す。
何も言わず電子シェードのボタンを押し、外を見れないようにすると、今度は前後の窓に身を乗り出して覗き込んでいた。
私の空間は保たれたと安堵していたが、沖縄上空で前後からの「うわー、凄い綺麗!」の声に反応して外を見ることも出来なくなっていた。
隣の女性は前後の席に飛び込むのではないかというくらいの勢いで覗き込んでいる。
これは流石にこっちに来たらウザいなと思い、調光ボタンに触りかけた手を戻し、読みたくもない村上春樹を広げるのであった。
とりあえず堪能
ホテルにチェックイン後、すぐ漁港に向かう。
30年近く前に買ったマリアのバイブレーションの後ろを40cmくらいの魚が2、3匹付いてきた。
興奮しながらキャストしたり、八の字したり、ルアーを変えてみたりしてみたが、食ってくる様子はない。
2時間ほど繰り返すがまったく釣れなかったため、気持ちを切り替え晩飯へ。
ヤギ汁。
なるほど。
ヤギね。なるほど。
明日はGTだ。ほどほどにしておこう。
GT講習
船長に挨拶をし船に乗り込む。
「初めてのGTということで、出航まで色々と説明しますね。」
GTとはどんな魚なのか、一般的な技術、かかってからのやりとり。一通り座学を受ける。
ドラグは最初8kgなのだという。レギュレーションを説明されながらのチェック。
バーブレスはもちろんのこと、タックルまで全部チェックされる。ここで合格しないと出航は無い。
予備で使うキハダのタックルを持って来た。最大ドラグが8kgまでなため、深い場所なら問題ないと事前確認はしてあったが、改めて念を押される。
シャローGTは12kgは最低ドラグかけれないと厳しいのだそうだ。
「さて、実際にかかった時の動きなんですが」
と、ルアーを持ってマリーナに降りる船長。
GTがかかったときの練習をするらしい。ロッドを構える。
「はい、ルアーアクションさせますー。あっ!かかったよ!」
ルアーを勢いよく引っ張る船長。船長がルアーに食いついたGTということらしい。
「そこでロッド立ててっ!」の声にあわせて動くが強烈な引きである。ノサれないように腰を落とし踏ん張る。
私の半笑いの顔は一瞬で厳しくなった。
「どうですか。これで20kg後半から30kgくらいの引きです」
喘ぎが止まらない。
「まぁ5分だね。だいたい5分耐えれば何キロでも上がるから」
「えー。これ5分もあるのー」と、まだ薄暗い空を見上げる。
ラインシステム組み直し
これまでキャスティングも独学だった私は、船長にさらなる講習をお願いした。
「2日もやるんだから、今のじゃ身体もたないよ」と、飛距離は20mほど落ちるが疲れないキャスティングを教わる。
確かに練習していたキャストは、数十投もするとヘトヘトになってしまっていた。
「そのロッドはGTもいけるってなってるけど、基本はクロマグロ用のロッドだから、凄い重いのよ。飛距離落ちても1日投げれるやり方がいいよね」
出港してしばらくすると、船長が蛇行運転を繰り返す。
何事かと思っていると、「ウミガメがいるから避けるのでー。すいませんー」とのこと。
海面を見ると、ポコポコと何かが飛び出ている。あれがウミガメか。
というかものすごい数がいる。
ゆっくりと船がスピードを落とし「さぁ、やりましょうか」の声。
ベタ凪の海に飛んでいくカーペンター ガンマ90が美しい。
「アクションが駄目だね」との声とともに、再度講習へ。
「そのシステムやめてみない?」
諸先輩方から聞いたおすすめを色々取り入れ、何時間も練習して組んで来たラインシステムをやめろというのだ。
聞けば講習通りやるとエアーノットなどのトラブルは無くなるらしいが、余計なラインシステムを組んでいると、そこからトラブルに発展することが多いとのこと。
出来るならシンプルにしたほうが道具によるトラブルは少なくなり、あとはキャスティング、巻取りの技術を安定させればいいらしい。
「えー。そのトラブル回避のために組んできたのに」
思わずボヤいてしまう。
がしかし、船長は「キャスティング、巻取りが安定すればトラブルは回避出来る。まずは信じて基本を忠実にやってみて」と笑顔で返してきた。
「ノットはこれがいいよ」などアドバイスを受けながら2人でラインシステムを組み直した。
ポッパーを投げ倒す
カーペンター シーフロッグをひたすら投げる。
「ポッパーのほうが釣れるんだよね」の船長の声を信じたからだ。
「スレてるからダイペン、シンペンのほうが釣れるって聞きましたけど」
反論はしてみたが、「やっぱりポッパーのほうが安定して釣れてるよ」との返し。
「ポッパーを一日投げると抵抗あるから凄い疲れるのよ。あとはダイペンのほうがやってて楽しいから、みんなダイペンばっかり投げちゃう。でも、統計とるとポッパーのほうが間違いなく釣れてるね」
そういうものなのか。
「ボッ、ボッ」
キャスティングの合間に船の周りから何かの音が響いてくるのに気づいた。
船長にこの音は何かと聞くと、「ウミガメが呼吸してるの」とのこと。
よくよく見回すと、10匹近いウミガメが船を取り囲んでいる。
イルカと一緒で、ウミガメいると釣れないんじゃなかったか?などと記憶していたが。いやはや、この数はヤバいのではないだろうか。
その心配に答えるように呼吸音が響く。
「プシュー。ボッ」
ついに出た
かなりの移動を繰り返し、ポッパーを一日中投げ倒し、さすがに疲れが出てきた。
せめてアタリでもあれば。
「今日はあと30分くらいだね。出てもおかしくないんだけどなぁ」
船長の声が寂しく響く。
身体が覚えたロッドワークを繰り返していると、「ボゴンッ!!」っとポッパーの周りに小さな水柱があがった。
「出たぞッ!!慌てずやり取り思い出して!!」の声と同時に船のエンジンがかかる。
講習を思い出しながらアワセを入れる。
「いいよー!!はい、竿立ててー」
無我夢中で竿を立てると、突如視界がスローモーションになった。
「あれ?全然竿曲がってないな。」「あの銀色の魚体がGTか。でもちょっと小さいんじゃないか?」「ん?反転?いや、こっち向かってきた?」などと情景にあわせて心でつぶやく。
まるでジョン・ウーの映画のようにゆっくりと流れる。
そのうち鳩でも飛んでいきそうだ。
「あ、やばっ!!」
向かってきたGTの口からルアーが飛び出した。抜けてしまったのだ。その様子もしっかり見える。
船長がすぐ声をかけてきた。
「バラシの理由わかる?」の質問に、こちらに向かってきたのに巻取りが遅れてしまったことではないかと話すと、「ロッドが曲がってれば戻る間に巻き取れる余裕出来るんだけどね」との返し。
10kg無い程度のサイズでは、クロマグロ用の竿は曲げれない。明らかにオーバースペックのタックルだとのこと。
「まぁ狙ってるのはあのサイズじゃないから。30kg、40kg狙っていこう」
納得はするが、悔しい思いのまま1日目は終了する。
幸先がいい
「え、何?両方ともポッパーつけたの!?やる気だねぇ!!」
笑顔の船長からはじまった2日目は、数投で水柱が立つ。
「バゴッ!!」
ノったか?や、ノッてない。残念。と思っていると、「止めないで!動かし続けて!」という船長の叫びが聞こえてきた。
「あー。駄目だよ手止めちゃ。アクションし続けたらまた食ってくるかもだから」
びっくりアワセが一番駄目だが、止めても駄目なのだという。
がしかし、朝イチで飛び出した姿を見てモチベーションは上がりまくったのだった。
待望の釣果だが
ホッツ ケイコオーシャンポッパーRVを投げ続けたが、流石に疲れてきた。
カーペンター ガンマ90にルアーチェンジして残り1時間にかける。
丁寧にアクションをつけると、突如水柱が立った。
「ノッた!ノッたよ!!」
パリピ並みにテンションの高い船長の声が聞こえてきた。
赤い。GTでは無さそうだ。
「ポンピングして!ポンピングして!」
いやいや、余裕で寄ってくるし。全然引かないじゃない。ポインピングいるの?などと思いながらクルクルと巻いて寄せてくる。
船長のタモに入ったのは6kgほどのバラフエダイ。沖縄ではアカナーと言うらしい。
「いやー、デカいですね」
「小さいよ。もっと大きくなるから」
とのこと。6kgでも小さいのか。
フックを外し写真を撮るとサッサとリリースしてしまった。
「シガテラあるから食えないよ」とのこと。なるほど。残念。
「ちょっとこれは反省会だね。。。」
私のやり取りを見て不満のようだ。
どうやらポンピングをしないのが問題だったとのこと。普通に巻けるなら巻けばいいのでは、という私の考えは、その後の言葉であっけなく覆される。
「昨日もだけど、巻けるのは操船でサポートしてるからだから。根に当たらないように、巻けるより早く多く巻き取らないと。そのためのポンピングだから。シャローでやる以上どの魚でも同じ」
そして、この言葉を続ける。
「30kgのGTだったらあがってないよ。小物釣りに来たわけじゃないんでしょ」
巻き取れる、巻き取れないじゃない。巻き取るんだ。
力でねじ伏せる釣りをしなければ、目標としてる大物GTは一生あがってこない。
厳しい言葉であるが、逆にGTフィッシングの奥深さを知り、より昂ぶってしまった。
完全に舐めていた。想像以上に技術と体力がいる。
上等じゃないの。絶対釣ってみたい。
がしかし、気づくのが遅かった。2日間の釣行は終了した。
すぐリベンジを誓う
私は天国にいるのではないか。そう錯覚するくらいの美しい場所で2日間釣りをし帰宅。
すぐさま行きつけの釣具屋に行き、船長おすすめのタックルの在庫を確認してもらうが、入荷は早くて1年後だという。
大手チェーン店にも確認してもらったが在庫はない。
とりあえず中古を探してみよう。状態が良いのはあるだろうか。
飛行機を調べると、快適さを選ばなければ相当安く行けるらしい。
更にはホテルの質も落とせばだいぶ安い。
一人で釣りだけを目的とすれば、遠征費用は相当抑えられる。
これは、しばらくはGTのために霞を食って行きていかなければ。
また、あの海で釣りをしたい。
缶コーヒーを買いたい指を折りつつ、あの青い海を思い出すのであった。