雨が怖い。どうも何某です。こんにちは。
梅雨時のネタ何かあったかなと思い返してみたのですが、すぐには出て来なかったので、書き留めてたのを出します。
あ、そうそう。思い出話は方言とか訛りが酷いです。文字に起こすと余計酷い気がします。多分意味通じてないとは思いますが、雰囲気でよろしくお願いいたします。
水辺のマリオネットと遭遇した話。
「S君がら電話だよー!!」
母親に呼ばれた当時小学生の私は、オルゴールに置いてある受話器を取った。
「お前の家の電話置ぐやづの音、俺んちと一緒だな。」
『何がしたが?』
「おじさんがカツカ獲りに今がら行がねがって。どうする?」
『行ぐ。』
夕飯時のアニメを見ている最中だった記憶があるので、おそらく20時前頃だろうか。
母親の運転でS君の家の裏の川沿いに降ろされる。
土手を越え歩いていくと、灯りが2つほど見えた。1つはこちらの懐中電灯に反応したのか、左右に大きく揺れている。
「ほれ、これ。」
S君から手渡されたのは木の枠。
これを水面に浮かべ、覗き込むと水中が綺麗に見えるのだ。
これを使って、寝ているカツカを見つけ、手や網で捕まえる。
カツカというのは方言で、カジカというのが正式な呼び方だろうか。
S君のおじさんは、ヘッドライトを使い、木枠を持っていない空いた手にはヤスと呼ばれる、カエシのついた魚突きの道具を持っていた。
この方法で魚を取ると、まごうことなく密漁になるのだが、当時は地元民は見逃されていたようだ。
おじさんに挨拶をすると、「深いどころあるがら気をつけろよー。」と返ってきた。
夏場毎日のように通っている川だが、夜は勝手が違う。慎重に足を進める。
S君と2人で10匹以上を1時間ほどで捕まえただろうか。
少し飽きてきた2人は「帰る。」と伝えるためにおじさんのほうに近寄っていった。
すると突然
「来るなっ!!!!」
怒鳴るおじさん。
一瞬で緊張し身体を固める2人。
「サクラマスだっ!!!獲るぞっ!!!逃げるがら、そごで待っとげっ!!!」
大物を目の前にし、これでもかと興奮したおじさんを、川に入らず2人は見守る。
実際は時間にして1、2分だとは思うが、随分長く感じた。それほどの緊張感が漂っていた。
肘をゆっくり大きく引く。いよいよおじさんがサクラマスを仕留めにかかるのだ。
息を止め見守ろうとしたその時、「ジャッ!!」と水面にヤスが突き刺さる音が聞こえる。
「あああああああっっっっ!!!!!」
おじさんの絶叫が聞こえた。仕留めたのだ。あのサクラマスを仕留めたのだ。
興奮を押さえきれず走り寄る。
『おじさーん!!』
我々のほうへ身体を向けたおじさんは右手で力強くヤスを引き上げた。
それにつられて引き上げられる左足。
もう一度。おじさんは右手で力強くヤスを引き上げる。
一緒に引き上げられる左足。
「あああああああっっっっ!!!!!」
叫ぶおじさん。
よく見ると、左足のスネからふくらはぎあたりにかけて、深々とヤスが刺さっていた。
『なんだ!?どうしたのそれ!?』
「サクラマスだと思ったら自分の足だったぁ!!!」
『えっ?』
あろうことか、おじさんは自分の足をサクラマスと勘違いし対峙していたのだ。
抜こうともがくが、カエシのついたヤスはしっかりと左足に刺さっており、まるで操り人形のように意のままに動かすことが出来た。
「スネの毛が鱗に見えだぁ。。。。やっちまったぁ。。。」
そんなことがあるのか。何をどう間違えば、自分の足とサクラマスを見間違うのか。
とりあえず河原におじさんを寝かせる。これ以上は小学生2人ではなんとも出来ない。
2人で走りS君の父親を呼び、連れてきた。
「おい、なんじょした?」
「サクラマスだと思ったら自分の足だった。。。」
「え?」
呆れて言葉も出ないS君の父親。
「。。。とりあえず家に連れでって救急車呼ぶべ。」
歩くと長いヤスが揺れて痛いらしい。
それもそうだろう。自分の足をサクラマスと間違えて、親の仇ほどの勢いで突き刺したのだ。
トラクターのショベルにおじさんを乗せ家まで運ぶ。
しばらくすると救急車が来た。
「どうしました?」
「サクラマスだと思ったら自分の足だった。。。」
「え?」
やはり一度では通じないらしい。
それもそうだろう。自分の足とサクラマスを間違える経験がある人に、ほとんどの人は会うことはないのだろうから。
おじさんの姉にあたるS君の母親は「魚ど間違えで自分の足刺すなんて馬鹿野郎だっ!!オラは恥ずがしいっ!!」とかなりの剣幕で怒鳴り散らす。
その姿を見てS君は恥ずかしそうにうつむいていた。
「カエシついでるがらね。病院行かないど抜げねがら、まずここで切ってしまうがらね。」
そう言うと救急隊はグラインダーでヤスの持ち手ギリギリのところで切りはじめた。
「何や?足切ってるのが?」
救急車が来たというので近所の人たちが集まってきた。
S君の母親は「オレは縁切りでのさ!!」と怒鳴ってはいるが、上手いこと返していた。
その姿を見て、S君は恥ずかしそうに家に入っていった。
「サクラマスだと思ったの!!」
と、嗚咽まじりに叫びながら救急車に乗り運ばれていったおじさんを見た私は、この遊びはもうしないようにしようと心に誓った。