秋の味覚を釣りすぎた話。

今年もサンマが不漁らしいですね。どうも何某です。こんにちは。

子供の頃は、サンマってのは秋に海側の知り合いから大量に送りつけられるもので、買うものではないと教えられました。
今思うと贅沢な話です。

秋の味覚を釣りすぎた話。

「おー、暇がー?暇だなー。行くぞー。」

仕事終わりにS氏、H氏と雑談していると、M氏が勢いよくやってきた。
突然のことに、わけもわからず各々の車から積みっぱなしの海釣り用のロッドを持ち出し、私の車に乗り込んだ。

「今朝ヒラメやりに行ったらさ、サンマが来てるってんだよ。」

S氏とH氏はすでに後ろで酒盛りをしている。

『何で釣るのや?』

「サビキだってよー。」

サンマというのは沖にしかいないものだと思っていたが、湾内や港内などに接岸することがあるのだという。

「あがんねーくらい食ってくるってよ。シーバスロッドなら大丈夫がもな。」

「なによ、サンマ釣りに行くのが?じゃ、ちょっと家に寄ってよ。」

H氏のバーベキューコンロと炭を車に積み、それならばと途中スーパーで酒を大量に買い込んだ。
完全に朝まで釣りをするつもりである。明日は仕事ではなかったか。

「大丈夫。ちゃんと買ってあるぞ。」

そういったS氏はゴソゴソとビニール袋を漁り、バービカンを渡してきた。

『うわ。。。いらね。。。』

バービカン、いわゆる当時のノンアルコールビールは異様に口に合わなかったのだ。
その様子を見て盛り上がる3人。現地についたら浴びるように酒を飲むことを決める。

「寒みぃな。火起こすべ。」

堤防を風よけにし火を起こす。

『酒くれ。』の言葉にバービカンを渡してくる、くだらないやり取りに盛り上がる。すっかり我々は出来上がってしまったようだ。
「あれ?竿は?」の声にM氏が反応する。
火にあたりながら酒を飲んだくれていた我々の横で、密かに竿を出していたM氏の磯竿が見当たらない。
堤防を歩いて行くと、少し離れた場所のロープと足場に引っかかっている竿が見つかった。
慌てて回収するM氏。
持ち上げたロッドが満月にしなる。

『根がかりが?』

「ちがうー!サンマだー!あがんねー!」

見るとパンパンに太ったサンマがぶどうの房のようにぶら下がっている。柔らかすぎる磯竿では持ち上がらないのだ。
タモ網を2つ使い無理やり取り込む。

「すげーな!よしっ酒だ!」

S氏はコンロの網に強奪したサンマを放り投げ、手にしていたウィスキー「無頼派」で喉を潤した。

「チャンスだって!釣りしろって!」と叫ぶM氏。

「安易な生き方は蹴っ飛ばす。それが無頼派だ。」

S氏はウィスキー「無頼派」を飲みながら答える。
私とH氏は、本当にサンマが釣れるのかと驚きながら準備した。横目で見る外灯に照らされた海面には、もの凄い数のサンマが泳いでいるのが見えた。
M氏はサビキを10本から減らして引き抜ける数にしたようだ。
クーラーボックスにすでに何十匹と入っている。入れ食いだ。

『いねぐなったが?』

我々が仕掛けを落とした時には、すでに群れがいなくなっていたようだ。

「まだすぐ来るがら大丈夫だ。」

回遊待ちということであればと、竿置きの三脚を立て、竿先に鈴をとケミホタルをつけて再びやってくるのを待つ。
振り向くと、頭を超えるほどの火柱と格闘しているS氏がいた。

「火力が強くてだめだぁ!」

よほどサンマの脂が凄いのか。垂れた脂で炎上してしまったらしい。
炭になってしまったサンマを諦め、火力を再調整し丁寧に焼くことにした。
横で釣ったばかりのサンマを刺身にする。

『なっ?サンマはニンニク醤油で食うのが美味いべ?』

皆うなずく。
焼き上がったサンマを川魚の塩焼きのようにむしゃぶりつく。裂けた皮から脂がトロトロと身を伝い、両手をベトベトにした。
最高の宴だ。
S氏はウィスキーの瓶に直接口をつけ、ビールのように流し込んでいる。大丈夫なのだろうか。

「俺はもう無頼派しか飲まない。いや、俺自身が無頼派だ。」

などと言ってるので、もう大丈夫ではないのだろう。

「きたぞッ!」

これでもかと竿先の鈴が鳴る。サンマが回遊してきたのだ。
釣り上げては針を外し、仕掛けを落とし直すを繰り返す。
一通りアタリが無くなったのを確認し、堤防に放置していたサンマをかき集めクーラーボックスへ放り込む。
S氏は高級リールのステラが汚れるのが嫌だと竿を出してないため3人分の釣果だが、それでも1回の回遊で150匹以上は釣れている。この調子だと各々のクーラーボックスがすぐ満杯になってしまう。

「30リッターくらいの4つじゃすぐ満パンなるな。」

『や、そんなに釣っても食い切れねーじゃ。』

確かに。と皆思いながらも回遊してくると釣るのを止められない。
結局、わずかな時間で全てのクーラーを一杯にしてしまい、納竿することにした。

「さすがに焼いたサンマだけ何匹も食えねーな。」

酒を飲んでしまったので帰るに帰れず、S氏を除いた我々は車中泊をすることにした。
翌朝、片付けて帰らなければと行くと、海を見ながら赤ワインをラッパ飲みしているS氏がいた。

『なにや?寝でねーのが?』

「それが無頼派たる由縁よ。」

何を言っているのか。そもそも今飲んでるのは赤ワインじゃないか。
見ると、サンマと引き換えに外に出した全ての酒が空になっている。とんでもない量を飲んだらしい。

「寒すぎて酔わないんだ。。。」

なんでそんなになるまで起きていることにこだわったのか。
聞いても曖昧な返事しか返ってこない。
謎を残したまま帰路についた道中は、どうやって仕事行く前にこのサンマを配りきるかの相談で持ちきりだった。
目を閉じると、早朝の忙しい時間に、大量のサンマを持ってこられた人々の迷惑そうな顔が、今でも思い出される。

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